クエスト「樹海遊撃隊」
酒場に立ち寄ってみると、とある依頼が貼り出されていた。4階のモンスターの活動が活発化しているため、3日間のあいだ哨戒に当たってほしいという内容だ。
ギルド「ネコのテチョウ」のメンバーは、その依頼について話しあう。
「これって普通に考えて5階に現れたキマイラってやつの影響じゃないの? だったら、先にそいつを倒しに行った方が速くない?」
そう疑問を述べるソードマン。
さらに、レンジャーとメディックが付け加えた。
「……3日あれば、あいつらもキマイラの所に着くだろうな」
「だね。あとで追いついても、死体は治せない」
パーティの間に沈黙が漂う。
思い浮かべているのは、途中で出会った二人組だ。
たった二人でキマイラを倒すと言っていた。
二人がどれほど強いのか、そしてキマイラがどれほど強いのかは分からない。だが、少人数で迷宮を探索することの恐怖はリアルに想像できた。
彼らは普段5人で行動していて、それぞれに役割を分担しながら戦っている。
パラディンが敵の攻撃を防ぎ、その間にソードマンとガンナーが敵を屠る。傷を負ったときにはメディックが治療し、レンジャーはそもそも戦闘を避けることに注力していた。
そうやってそれぞれの技能を活かしてフォローし合いながら、迷宮の探索を進めている。
だが、役割を分担するというのはお互いに依存するということでもある。彼らの戦術は仲間の誰かが倒されてしまえば一気に破綻してしまうもろいものなのだ。
だから彼らにしてみれば、頼る仲間がいないという状況、たった二人で戦うという状況はあまり想像したくないものだった。
「ネコのテチョウ」のメンバーは、いやがおうでも二人の破滅する姿を思い浮かべてしまう。
彼らの周りだけ、酒場の喧騒が薄まっていた。
そんな重苦しい沈黙を打ち破ったのはパラディンだ。
「非情なことを言うようだけど、迷宮の中じゃ他のギルドのことは構っていられないよ。たとえ彼らが無謀な戦いを挑んで、敗れたとしても、それは彼らの問題だ。僕たちは、僕たちの方針で世界樹を登ろう。慎重に進むこと、ギルドに犠牲者を出さないことが最優先だ。先を急ぐよりも、まずは足元の安全を確保してから進むほうがいい」
彼がそう言った直後、それまでの張り詰めた空気が緩んだ。
ひとまずやるべき事が決まって緊張がほぐれたらしい。
「まあ、あなたがそういうなら異存はないよ」
自分の意見が通らなかったことを特に残念がるでもなく、あっさりと同意するソードマン。
レンジャーもメディックも、彼女と違いはないらしい。
4人の意見が一致した。
「あとは……」
残るガンナーは会話に参加せず、少し離れた席に座って、いつの間にか注文したジュースを飲んでいた。
パラディンが彼女の方に視線をやると、ガンナーはほとんど顔も上げずに答えた。
「私はどっちでもいい」
「……そう言うと思ったよ」
ギルド「ネコのテチョウ」は4階の哨戒任務を引き受けることにした。