猫ロケット

夜空の星はねこの輝き。アニメ感想とか書きます。

クエスト「樹海遊撃隊」その3

 ギルド「ネコのテチョウ」はその後幾度かの戦闘を経て、夜を迎えた。
 そして、夜を迎えたとたん、何もかもが変わった。

 魔物たちは豹変した。

 より凶暴に。
 より素早く。
 より貪欲に。
 より狡猾に。
 闇からの不意打ち。
 倒しても倒しても湧いてくる。
 逃げても逃げても追ってくる。
 恐怖が彼らの気力を削いでいく。
 感覚が過敏になって、交代で眠ることすらできない。
 あらゆる物音が敵に思えた。
 闇の奥には無限の魔物たちが存在していて、その無限の悪意がすべて自分たちに向けられているように感じるようになった。彼らは孤独で、弱く、依頼を引き受けたことは大きな間違いだったと後悔するようになった。その弱気は正常な判断力を鈍らせ、危険を招きかねないと分かっていても、根源的な恐怖が全身の皮膚の内側にこびりついて離れなかった。夜は永遠に終わらないように思えた。


 夜が明けたとき、消耗は歴然としていた。
 犠牲者こそいないものの、誰もがひどく疲弊していた。

 特にひどいのはメディックだ。度重なる魔物の襲撃に傷ついた仲間を手当するうち完全に消耗しきっていて、治癒の術を使う余力も残っていなかった。

 彼らは早々に帰還することにした。もちろん報酬はもらえない。準備にかかった費用の分「ネコのテチョウ」は丸損だ。


 これまで順調すぎるぐらい順調に進んできていた「ネコのテチョウ」にとって、これは初めての敗北だった。

 4階の魔物は普通にやれば決して遅れを取るような相手ではなかった。彼らの敗因は、十分に注意しているつもりでも、それでもなお迷宮の恐ろしさを軽く見積もっていたことだ。そのせいで予想外の事態に陥ったとき、平常心を失ってしまった。

 彼らは一様に苦虫を噛み潰したような顔をしており、それぞれが自分の未熟さに打ちひしがれている。

 ただ一人だけ満足そうにしているのがガンナーだ。彼女だけは、まるでめいっぱい泥遊びをしてきた子供のような表情で堂々と帰還した。

「たくさんモンスターが撃てて楽しかった」

 出発したときには、彼女の小柄な体格には見合わないほど大量に持っていた弾薬もかなり減っており、ずいぶんと身軽になっていた。

「こういうの、またやろう」

「ほんと、お前の脳ミソって何が詰まってるのか見てみたいよ」

 メディックが心底呆れたように言った。

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 任務は失敗に終わった。彼らは宿に戻るとすぐにベッドに潜り込み、眠った。毛布は暖かく、夢は見なかった。